東大物理対策~学習の道のり~
当塾物理科講師による東大物理対策(ストラテジー)を一部導入部分を一般公開します。ぜひご参考まで。
第2章 学習の道のり
本章の目的は、最終的に東大物理で満点を取れるようになるまでの、学習の道のりを記すことである。全ての道のりは書ききれないので、特に基礎レベルの問題を素早く処理できる人が、東大レベルの問題を同様に処理できるようになるまでの道のりについて詳しく記した。ここで、基礎レベルの問題とは、旧センター
試験や傍用問題集の応用問題程度の難易度の問題を指すことにする。以後、基礎問題と記述した場合には、この定義で使うものとする。
東大物理はの構成は、力学主体の大問1、電磁気主体の大問2、熱または波主体の大問3 からなり、標準的に75 分の試験時間で解くことになる。問題のレベルとしては、半分が典型的な基礎問題(定義は冒頭の文章を参照)、残り半分が東大特有の難しさがある問題である。これに加えて、普通の問題集では見かけないような特殊な設定が出題されることもしばしばある。このレベルの問題をわずか75 分という多くの人にとって短い時間の中で処理しなければならない。従って、まずは、基礎問題を高速で完答できるようになることが、学習目標のファーストステップである。これに関しては、旧センター試験を30 分から50 分程度の時間で、9 割以上の得点率を安定的に取れるかどうかが良いチェックになると思う。まずはこのレベルを目指すことになる。簡単にではあるが、このレベルまでの学習法を紹介する。自分が使いやすいと思う基礎レベルの問題集を使って、全ての問題を素早く解けるようになるまで徹底的に勉強することである。ここが全ての土台となるので、理解があやふやなところはなるべく減らしたい。ただし、物理に登場する公式の理屈や公式同士のつながりを本当の意味で理解するには、後に述べる微積分などのやや高級な数学を用いた物理を学ぶことによって達成される。従って、この段階では、全てを完璧に理解しようとするのではなく、物理のイメージと数式がリンクすることと、各問題に対してなぜその式を使うのかを自分なりに説明できるようになることを意識しながら勉強すると良い。
次に、基礎問題がある程度素早く処理できるようになると、2 次試験レベルの問題を解くことになるが、このレベルはさらに大きく二つに分かれる。具体的には、河合塾が出版している「名問の森」に掲載される問題のレベルと、それより高いレベルである。東大では前者までの完成度を高く仕上げれば、6 割程度は取れるようになると思う。この段階から、問題でわからなかったところはより突き詰めて研究すると良い。研究するとは、微積分などを用いなくてもよいが、公式の出どころを調べたり、簡単な導出をやってみたり、問題で遭遇した考え方を自分が腑に落ちる形に言語化したりすることである。また、物理の勉強では、質の高い勉強をすることが最も大切で、それを疎かにして量をこなそうとするのは良くない。全ての物理の問題で問われるていることは、物理の原理原則を適用して計算することである。従って、原理原則をわからないまま、それとなく式を立て続けても、問題を安定的に解けるようにはならないのだ。いちいち公式の導出を調べたり、各問題の考え方の言語化をしたりすることは、手間がかかり回りくどいと思うかもしれないが、結果的にこのような勉強法が東大の問題を解くときに真価を発揮するので頑張ってほしい。
また、公式の理屈をある程度説明できるようになると、微小量を用いた問題などのより難しい問題への対策の準備となる。では、どうやって物理の公式の理屈を勉強すれば良いのかについて説明する。物理の公式には、大きく分けて、原理、法則、現象論的式の3 つの階層構造がある。ただし、原理であるものが法則と呼ばれることもあるので注意してほしい。また、これらは、数学で言うところの、公理、定理、経験的に得られた式に対応する。すなわち、ニュートンの運動の三法則(これは高校範囲の力学の原理。) のような、証明不可能な最小限の認めるべき仮定のことを原理という。原理の正当性は、これまでのあらゆる実験がその原理を満たしていることから担保されているので、自然界のルールを人間が数式として帰納したものと言える。他にも原理には、ガウスの法則(クーロンの法則)、電流が作る磁場の公式、ファラデーの電磁誘導の法則、ローレンツ力の式などがある。これらの原理は自然界のルールそのものなので、なぜ成り立つかを問う意味がない。そういうものだとして覚える必要がある。そして、この原理たちが立式の際に最も大事な公式としての役割を果たす。従って、原理は覚えるものと言っても、その式が意味する物理的イメージまで含めて当たり前のものとして受け入れられるように、公式を使い込む必要がある。法則とは原理に特定の条件を課したり、複数の原理を用いることで証明できる事象のことを指す。例えば運動量保存則は、外力の力積が無視できる場合に、原理である運動方程式から導出される。その導出過程を見れば、外力がゼロであるという適用条件の意味も明快である。また、厳密には法則と呼べるか怪しいが、円運動の速さの公式が、角速度と半径の積で与えられることも、円運動という条件を加えた上で速度の定義を用いれば証明できる。このような経験を積むことで、公式の適用範囲が明快になるだけではなく、物理でよく行う計算の感覚を身につけることができる。一方で、例えばキルヒホッフの法則は、電磁気学の原理を回路の設定に適用すれば導けるものだが、回路を念頭に入れた問題では、根本的な法則として扱われるので、この法則の導出は勉強してもオーバーワークになってしまう。このように、高校物理において公式の導出をどこまで理解するかの匙加減は難しいことが、物理の敷居を高くしている要因の一つである。この匙加減を自分でうまく調節できない人は、物理をよく理解している先生に質問しながら学習を進めるのが最も時間効率が良い。経験則に基づく式としては、摩擦力の公式などがある。経験に基づく式に関しても、高校物理に登場する根本原理から証明することができないので、なぜを成り立つかを考えてもあまり学びがないことが多い。以上のことをまとめると、原理と経験則の式になぜを問うことはしない。ただし、原理は最も大切な公式なので、その内容を詳しく説明できる必要がある。そして、法則やその他公式は、その導出過程にも目を向けることで、得られる学びが大きいので、なぜ成り立つかを問うことが大切である。
以下、中略